私は"良い"オタクになりたい

 

私は常々、"良い"オタクになりたいと思っている。

 

自担が出ているテレビやラジオ、雑誌はくまなくチェックし、発言や一挙一動をすべて把握し記憶する。基本的なプロフィールはもちろんのこと、その時々の近況、最近買ったもの、嬉しかったこと、交友関係、コンサートに込めた思い、バラエティでのちょっとした言い間違えとか。

写真フォルダや過去の雑誌の切り抜き、テレビ番組のダビングなんかは綺麗に整理されていて、あの時の発言、あの時の髪型、どんな資料だって頭の中の引き出しを探ればすぐに出すことができる。

そしてそれらをSNS上に、「かわいい」とか「かっこいい」とか単純な言葉だけじゃない自分の感想や解釈とともにシェアしていく。

自担がどんな性格で、どんな思想を持っていて、どんな歌い方をし、どんな踊り方をするのか。自担が人間として、アイドルとして、どんな人なのかを高い解像度で観察し、理解し、「自担のどんなところが好きですか?」と聞かれたら100個は優に列挙できる。

YouTubeに投稿された公式動画は再生回数を伸ばすための努力をする。出演した番組や、掲載された雑誌、CM起用された企業には感想を添えたお礼のメールやハガキを送る。

コンサートや舞台に行ったら、感想ブログを書く。自担の表情、歌、ダンス、曲目、演出、会場の雰囲気まで細かく感じとり、時には勢いそのままに、そしていつ読み返してもハッとするような、その時の高揚感が伝わってくるような文章を残す。本をよく読んで教養が高く、持ち合わせている知識と組み合わせて考察したりする。

フォロワーと仲が良い。アイドル論について語り合い、さらに解釈を深めていく。コンサートでは互いに手を取り合い、感動を分かち合う。終演後には一緒に飲み屋にでも行って、あれがよかったこれがよかったと喜びを共有し、思い出をより色濃いものに変えていく。

足ることを知っている。他のオタクはこうだから、などと比較し気にすることはなく、自分が満足できるオタ活の程度を理解していて欲をかくこともない。

現場の前は特に頑張るけれど、普段から髪型やメイク、スキンケア、ネイルなんかにも興味があって、選ぶ服も一目置かれるようなお洒落さん。いつ何時(なんどき)目の前に自担が現れても自信を持って立っていられるように、自担の名に恥じぬように、身なりを整えている。

かと言ってアイドルのオタクであることが人生のすべてではなく、仕事にも精を出し、ポジティブで、目標や夢があって日々自己研鑽を惜しまない。

 

さて、どうしたら私は私の思い描くこのような"良い"オタクになれるだろうか?

 

学生の頃はまだよかった。お金はないが、時間があった。かと言ってオタクとしての過ごし方は今とさほど変わらないのだが、社会に出てからは一層"良い"オタクであることの難しさを痛感する。時間の無さはさることながら、自分にも自分の人生があって、アイドルを応援することは娯楽の一環に過ぎない。真正面から真剣に向き合ったとしてなにが得られるだろう?そんなことも頭をよぎる。

テレビはまだ観る方だけど、ラジオを聴くことや雑誌の活字を追うことが元々苦手である。雑誌は写真だけ見て満足することも多く、インタビューを読み込んだことの方が少ない。ステージに立つ姿を生で見るほうが気楽だし、なにより自分が見たものがすべて、で完結させられる。こまめに情報を蓄積しているならまだしも、私のように限られた情報だけでその人の輪郭を形作り、人となりまで知った気になってしまうのも怖くて、自担の人間性に関する解釈はできないでいる。それもあって私の自担への愛情はなんとなく薄っぺらな感じがしてしまって、また"良い"オタクからは遠ざかる一方だ。

 

 

「僕たちを利用して人生楽しんでください」

 

そんなところにこのメッセージである。

ニュアンスはその時々ではあったが、HiHi Jetsの猪狩蒼弥くんがこの夏を通して届けてくれた言葉だ。

 

これまでにもこういった意味を込めたメッセージを発信してきたジャニーズはいただろうし、そもそもアイドルというのはそういう存在であるとして私たちの前に立ってくれている場合が多いと思うが、ここまで明確に、ハッキリと自身の存在する意義とファンへのエールを伝えてくれた人がいただろうか。

アイドルがついにそうハッキリと自ら言ってしまうのね!!という驚きもあるが、今までアイドルを応援してきてずっと心の何処かでモヤモヤしていたなにかがスッと流されていったことへの感動のほうが大きかった。

これまでもたしかに彼らのことを利用してきたことには違いないし、これから先も対価を払って彼らを利用させてもらい、仕事に向かう足取りを少し軽くさせたり、沈み込んだ気持ちを水面まで浮上させるための力をもらうだろう。

しかし、その利用の仕方にもいろいろあっていいんだろうと、このブログをつらつらと書きながら改めて猪狩氏のメッセージを見返して、自分への救いが見つかったような気がしている。

 

決して"良い"オタクである必要はないよ、と。

もちろん私が理想とするような"良い"オタクであることで人生が楽しくなるのもそれでいいし、すべてを完璧にしなくても自分のスタイルに合ったオタ活をして人生が華やぎ、ああ私もまた明日から頑張ろうと思えるなら最高である。

アイドルを応援するなかで自分の手のひらで掬い取れるキラキラを養分にして、自ら自分の人生をもう少し光らせられることがなにより大切なのだ。

 

さあ、私は"良い"オタクでありたいという呪縛から解かれて、もう少し自分の人生に目を向けてあげることができるだろうか?

キラキラを与えてくれる彼らに報いるためにも視点を変えて一歩踏み出してみなければ。

 

そうは言っても私の中で"良い"オタクへの憧れはきっとこれから先もあって、いつか一度は趣味としてオタクを極め、誇れるようにもなってみたいものだが、今は都合の良いようにぼちぼちとアイドルを応援して過ごし、うまく人生の追い風にしていけたら、とそんなふうに思う。

 

 

2021年、一度もブログ書いてないわと思ったのでリハビリを兼ねて短めで書くつもりだった文章。(2540字)